【アクアリウム】金魚をテーマにした短編幻想小説ｗｗ

するとここからだ。もの凄い形相で壁にぶつかり、あいつぶっ殺す！絶対許さん！クソッ！クソ！
全てのヒレをぐっと伸ばし全身の筋肉を怒りに震わせ、力こぶのように隆起させる
振り向いて睨み上げ、早口で独り言続ける。激突を繰り返して外に出たいかのようにした

また平静に戻りお嬢の媚びをやる。見て見て。可愛いでしょ。突然狂ったように鬼の形相になる。恐ろしかった
平静を装ってるが怖れているのを悟られていないか恐れた

気の振れた花魁の部屋のふすままで行って呼び出しをかけるような心境だった。手が震えた
気ちがいのように下から独り言をかけ、化け猫のようにあざ笑い、自暴自棄に衝突をくり返す
愛らしかったのに、もはや化け物、般若の形相だ。前のような愛情など、とてももてなかった

低気圧の通過で冷たい雨が続いていた。正視できず白の袋に入れ金魚池まで歩いた。足がガクガクした
雨は激しさを増し、水面は水柱が立っていた。下半身はずぶ濡れになってぬかるみを進み、袋を破った
さらば。ポチャンという音とともに尻を振るわせ、蓮の葉の下に消えた
雨の中、鴨やサギが佇んでいた

後日、再び雨の中探したが見つかることはなかった。ヒラヒラ着飾った紅白の姿などなく、ビュンビュン泳ぐオレンジ色の和金だけだった
ほとりに立っていると一匹の和金が近づいてきた
ほら、ほらおいで。こっち、こっち来てごらん。おいで。君の友達を探しているんだ。知らないか。
言い終わらぬうちにぴゅっと踵を返し、池の奥に消えた。鴨の夫婦が水中をついばんでいた