例えばね、水槽の中に熱帯魚を一匹だけ放り込むんだ

最初、熱帯魚は自分がどこにいるのかもよく分からないけど、
泳いでは壁にぶつかって自分が狭い箱の中に閉じ込められている事に気付くんだ
それでも酸素はあるし餌も貰えるし、暮らしとしては悪くない
なにせ水槽の中には熱帯魚を食べる魚もいないし凍えるような冬も訪れない
快適な生活は永遠に続くと思われた。でも歳月が過ぎるにつれて熱帯魚は思い始めるんだ
この人間は何なんだろうってね
疑問に思うまでの熱帯魚は、毎日律儀に餌をくれる人間を「そういう物」とだけ認識していた
でもおかしな話じゃないか。何の理由があってこの人間は俺に餌をくれるんだ？
正解は「飼われているから」、それだけの事
熱帯魚は気付いた。気付いた途端、楽園は牢獄に変わった
熱帯魚は怯える。いつ殺されるか分からない恐怖に怯える。しかし死は訪れない
熱帯魚の恐怖は誰にも理解されない。それは死刑囚の毎日だ。そうして熱帯魚は思う
「はやく殺してくれ」ってね
今俺はその熱帯魚を同じ気分なんだよ